鹿児島県警は5月13日、枕崎署の巡査部長=依願退職=を「盗撮」などの疑いで逮捕した。昨年12月19日の捜査開始から約5カ月。県警内部からは「事件ごとに処理スピードは異なる。しかし、今回のように初動から警察官が疑われたのであれば、一刻も早く白黒付けるべきで、こんなに時間がかかった理由が分からない」との声が聞かれる。
〈前編から見る〉【検証・鹿児島県警巡査部長盗撮】警官関与の疑いがあれば「本部長指揮」のはずが当該所轄事案 捜査中断…異例続きの捜査指揮に、現職・OB捜査員からも「常識では考えられない」といぶかしむ声
「盗撮は一種の癖だ。繰り返す者が多い」。野川明輝本部長は6月21日の会見で、自身の見解を示した。その上で報告を受けた昨年12月22日に、いわゆる研修に当たる「教養」を署で直ちに行うよう指示したと強調。「万が一署員が犯人であれば、立件するまでに同様のことをさせてはいけないと考えた」と説明した。
県警によると、教養は12月下旬、盗撮疑いのある巡査部長も含めて全署員が受けた。署が「盗撮」などをテーマに設け、グループで検討会を開いたり、非違事案の未然防止への考えを文章にまとめたりした。
当時は「署で捜査を尽くせ」との本部長指示が下りていた。複数の県警関係者は「捜査員と容疑者が同じ教養を受けている状況が信じられない。暗に『ばれているぞ』と伝えたようなものだ」と苦言を呈する。
後に公表された懲戒処分理由によると、巡査部長は2019年から少なくとも80回盗撮しているが、教養後に限れば、逮捕までの4カ月半の間に一度もない。
署は捜査開始から3カ月たった3月19日に「容疑者浮上報告書」を作成。ところが、この報告書は県警本部に伝わっていなかった。県警は理由について確認していないとしている。
報告書作成と時期を同じくして人事異動があり、巡査部長は警備課から地域課に動いた。元幹部によると、巡査部長クラスの配置替えは署長に一定の裁量があるという。県警は「適材適所」と説明するが、勤務中に複数人で行動することが多い地域課に置き、新たな事件発生の抑止を図ったとみる関係者は少なくない。
捜査上の不手際も判明した。南日本新聞の指摘で、証拠の一つとなる可能性がある「実況見分調書」の実施日が、事実と異なっていたことが明らかになった。
現職警察官らは「証拠能力を問われかねない重大なミスだ。よりによって“隠蔽(いんぺい)”が疑われる事件で引き起こすとは」と驚きを隠さない。県警OBは「一連の経緯に違和感を覚えたのは現職もOBも同じはず。しかし、異論を唱えた後の処遇を恐れると、現職は口をつぐまざるを得ないのではないか」と語った。
県警は「捜査が遅いとの批判は真摯(しんし)に受け止めるが、(前幹部の告発などを受け)事件を隠せなくなったから捜査したという事実はない」としている。
〈連載「検証 枕崎盗撮捜査」㊦から〉
南日本新聞 – 2024/07/14 12:05